都市分析 Vol.8
5軒に1軒が空き家、でも所得は全国16位
— 水戸27万人の“稼げるのに住まない”矛盾
水戸の都市構造をデータで分析 ── 人口・地価・産業・観光から読む“通う街”の正体と多極分散県の県庁所在地
🏙 水戸市
📊 国勢調査・地価公示 他7ソース
📅 2026.2.26
茨城県の人口は約287万人。その県庁所在地・水戸市に住んでいるのは、わずか9.4%の27万人だ。仙台が宮城の47%を、札幌が北海道の38%を飲み込んでいるのとは対照的に、水戸は“一極集中しない県庁所在地”である。なのに1人あたり課税所得は47県庁所在地中16位、財政力指数は同13位。昼間は3万人以上が流入する“通う街”。しかし夜には、5軒に1軒が空き家だ。
STORY
水戸は「お殿様の街」として育った。江戸時代、徳川御三家のひとつ・水戸藩の城下町として栄え、2代目藩主・徳川光圀(水戸黄門)は日本初の本格的歴史書『大日本史』の編纂を始めた。3代続いた学問重視の気風は、幕末に「水戸学」として全国に影響を与え、明治維新の思想的な導火線にすらなった。
明治以降、水戸は茨城県の行政中心を担う。しかし工業は別の街が引き受けた。日立市は日立製作所の企業城下町として重電産業を育て、鹿嶋市は太平洋岸の重化学工業地帯に、そして1960年代以降、つくば市は国の研究機関が集結する学術都市へと成長した。茨城の「稼ぐ機能」は県内各地に分散し、水戸に残ったのは県庁・裁判所・銀行本店──つまり「統治する機能」だった。
その結果、水戸には不思議な構造が生まれた。昼間は周辺から3万人以上が流入し、オフィスビルは満員。でも夜になると、5軒に1軒が空き家のまま暗い。直近の国勢調査によれば、2015→2020年の5年間で人口増加率はわずか-0.04%。27万人のまま、実質横ばいだ。なのに街には「空洞」がある。この矛盾したプロフィールをデータで解剖すると、何が見えてくるのか。
🍿 Snack
水戸と言えば納豆。市内には「天狗納豆」をはじめ複数の老舗メーカーがひしめき、JR水戸駅周辺は納豆みやげの激戦区だ。ちなみに水戸市が推す公式キャラクター「みとちゃん」は、頭にわらつと(納豆の藁包み)をのせている。好きな食べ物は、もちろん納豆。
稼げるのに住まれない県庁所在地 ——
そのデータには、何が映っているのだろうか。
Population
27.1万人
2020年国勢調査
Pop. Growth
-0.04%
5年累計 '15→'20国勢調査
Day/Night
112.4
昼夜間人口比率(9位)
DATA 01 ── 人口動態
水戸市の人口推移(2000〜2030年推計)
国勢調査実績+社人研推計。2025年以降は推計値
📌 【矛盾①】20年間ほぼ動かない人口。減りもしないが、増えもしない
水戸市の人口は2000年の26.2万人から2015年の27.1万人まで緩やかに増加し、2020年も27.1万人とほぼ横ばいに転じた(2015→2020年の5年累計で-0.04%)。東北6都市が軒並み-1%〜-4%の減少を記録するなか、この安定感は際立つ。しかし社人研の2023年推計によれば、2030年には26.3万人、2050年には24.4万人まで減る見通しだ。高齢化率は26.2%で全国平均(28.6%)を下回るが、年少人口比率12.4%は全国平均(11.9%)とほぼ同水準。「若い街」とは言えないが、「老いた街」でもない──まだ猶予がある状態だ。茨城県全体における水戸のシェアは9.4%。仙台(47%)や札幌(38%)とは桁が違い、「県都に依存しない県」の姿がここにある。人口が減らないなら、街の「値段」はどうなっているのか。
DATA 02 ── 地価
住宅地 平均地価(2025年)── 関東比較+全国位置
国土交通省地価公示より。単位: 円/m²
📌 【矛盾②】所得16位の街で、地価は47県庁所在地中43位。稼げるのに土地は安い
水戸の住宅地平均地価は39,547円/m²。関東の県庁所在地では最も安い。さいたま(238,250円)の約6分の1で、同じ北関東の宇都宮(64,838円)と比べても6割程度にとどまる。2025年の変動率は-0.1%とほぼ横ばいだが、商業地は+0.6%と回復の兆しがある。4年間の変動率は-0.4%で、宇都宮の+6.6%やさいたまの+15.5%とは対照的だ。地価が安いことは住宅コストの低さを意味するが、資産価値が上がらないリスクでもある。「買いやすいが、売りにくい」──それが水戸の不動産市場だ。では、地価は安いのに「稼ぐ力」はどうなのか。
DATA 03 ── 産業構造
1人あたり課税所得 ── 関東比較
総務省 課税状況調より(2023年度)。経済的な「稼ぐ力」を示す指標
📌 【矛盾③】昼間は3万人が流入する「吸引型」都市。なのに夜は空洞化する
水戸の1人あたり課税所得は359万円で47県庁所在地中16位。東北6都市がすべて340万円以下であることを考えると、関東の経済圏に入った途端にベースラインが上がることがわかる。ただし関東内では4位。県庁・銀行・士業が集まる行政都市の所得水準としては堅実だが、さいたま(423万円)や千葉(398万円)には届かない。第3次産業比率77.2%は関東の県庁所在地としては標準的。注目すべきは昼夜間人口比率112.4で、これは47県庁所在地中9位、東京都を除く関東6県の県庁所在地では最も高い。実数に換算すると、夜間27.1万人の街に昼間は約3.4万人が純流入し、昼間人口は約30.5万人に膨らむ。さいたま(84.5)や千葉(94.6)が東京に人を「送り出す」ベッドタウン型なのに対し、水戸は周囲から人を「吸い込む」ハブ型。同じ関東でも構造は真逆だ。昼間はこれだけ人が集まるのに、夜の住宅事情はどうなっているのか。
💡 小ネタ: 昼夜間人口比は「昼の人口 ÷ 夜の人口 × 100」。100を超えると周囲から人が流入する都市で、水戸の112.4は「昼間に約3.4万人が純増」する計算。47県庁所在地中9位、東京都を除く関東6県では最高値。さいたま(84.5)や千葉(94.6)が東京に人を送り出すなか、水戸だけが逆方向に「吸い込んでいる」。
水戸は「ベッドタウンの逆」だ。
さいたまや千葉が東京に人を送り出す一方、水戸は周囲から人を吸い込む。同じ関東でも、構造は真逆。
DATA 04 ── 住宅
水戸市の住宅ストック構造(2023年)
住宅・土地統計調査より。持ち家・借家・空き家の構成比
持ち家
借家
空き家
📌 【矛盾④】人口は横ばいなのに、5軒に1軒が空き家。ワースト5位の18.0%
水戸の空き家率18.0%(26,880戸)は47県庁所在地中5位の高さだ。同じ関東のさいたま(8.6%)や横浜(8.7%)の約2倍。北関東でも宇都宮(14.2%)や前橋(15.2%)を大きく上回る。持ち家率46.3%は県庁所在地としては低い水準で、宇都宮(51.4%)や前橋(57.8%)と比べると「持ち家を選ばない街」であることがわかる。月額平均家賃49,294円(全世帯平均、住宅・土地統計調査)は47県庁所在地中23位で、安くも高くもない中間値。新設住宅着工数は2015年の2,960戸から2023年は1,951戸へと減少しており、住宅市場の縮小傾向は明確だ。人口が横ばいなのに空き家が増える──この矛盾は、旧市街地の高齢化と郊外への人口移動が同時に進んでいることを示唆している。住民が増えないなら、外からの「訪問者」で街を支えられないか。最後に観光データを見てみよう。
DATA 05 ── 観光
年間延べ宿泊者数(2024年)── 関東比較
観光庁 宿泊旅行統計調査より
📌 【矛盾⑤】偕楽園を持つ歴史都市なのに、宿泊者数は北関東で最少
宿泊者数334万泊は北関東3都市で最も少ない。しかし成長率は印象的だ。2021年の195万泊から2023年には360万泊へと+85%の急伸を見せた(2024年は334万泊とやや減少)。インバウンド比率5.3%は北関東トップで、宇都宮(3.0%)や前橋(2.2%)を引き離す。これは日本三名園のひとつ「偕楽園」の存在が大きい。毎年2月〜3月の梅まつりは約100種3,000本の梅が咲き誇り、外国人観光客にも人気が高い。ただし、東京から特急で約70分という距離は「日帰り圏」でもあり、宿泊需要を取り込みにくい構造的な課題がある。ここまで5つの矛盾を並べた。所得は高いのに地価は安い。昼間は人が集まるのに夜は空洞化する。人口は横ばいなのに空き家は増え続ける。観光資源はあるのに泊まってもらえない。では、この矛盾の根にあるものは何か。
KEY INSIGHT
5軒に1軒が空いているのに、沈んでいない。
水戸は「居住都市」ではなく「機能都市」だった。
WHO ── 誰にとって"得"な都市か
🏛️
公務員・士業
県庁・裁判所・銀行本店が集中。官公庁勤務なら通勤利便性は抜群の環境。
💻
在宅ワーカー
家賃4.9万円で首都圏アクセスも確保。通勤不要なら低コスト生活の最適解のひとつ。
🏠
マイホーム志向
地価39,547円/m²は関東最安クラス。住宅取得のハードルが圧倒的に低い。
🌸
歴史・文化好き
水戸黄門・偕楽園・弘道館。徳川の学問都市としての文化資産が日常に溶け込む。
👨👩👧
子育てファミリー
物価は全国平均の97.5%(茨城県基準)。茨城大学も立地し、教育環境は整っている。
🚗
車社会に抵抗がない人
郊外ロードサイド型の街。車があれば生活利便性は高く、駐車場も安い。
一方で、キャリアアップ重視の人には物足りない。大企業の本社は東京に集中し、水戸での転職市場は公務員・士業・金融以外は限定的だ。車なし生活を望む人にも厳しい。JR常磐線はあるが、市内移動はバス頼みで本数も少なく、徒歩圏での生活完結は難しい。
CONTEXT
なぜ水戸は「稼げるのに住まれない」のか。根本にあるのは、茨城県そのものの構造だ。日立市は重電メーカーの企業城下町、つくば市は国の研究機関が集まる学術都市、鹿嶋市は太平洋岸の重化学工業地帯。茨城は全国でも珍しい「多極分散型」の県で、県庁所在地の人口シェアがわずか9.4%にとどまる。仙台(47%)や札幌(38%)のような一極集中モデルとは正反対の構造だ。
もうひとつの要因は東京の引力。常磐線特急で約70分、高速道路で約100分。この距離は、ビジネスには「近すぎ」、通勤には「遠すぎる」という中途半端なゾーンに水戸を置く。企業の本社機能は東京に寄り、若者も東京圏へ流出する。しかし県庁・地方裁判所・地方銀行の本店は動かない。結果として「昼の需要はあるが、夜の需要がない」という独特の構造が固定化した。
空き家率18.0%の内訳も示唆的だ。水戸の空き家の多くは、高齢化した旧市街地の戸建て住宅だと推測される。一方で南部の赤塚・内原エリアではロードサイド商業や新興住宅地が拡大している。つまり「都市全体が衰退している」のではなく、「都市の重心が移動している」。この新旧の二重構造が、人口横ばいなのに空き家率だけが上がるという矛盾を生んでいる。
ただし、この分析が示すのは水戸市単体のスナップショットにすぎない。茨城県全体の多極構造を理解するには、つくば・日立・鹿嶋といった副都心の動態も見る必要がある。また、空き家のうち「賃貸用の空き室」と「管理不全の放置住宅」は現行データでは区別が難しい。
水戸が突きつけるのは、都市の分類軸そのものへの問い直しだ。地方都市は通常「居住都市」として評価される──住民が増えれば成長、減れば衰退。しかし水戸は「機能都市」だ。住民数ではなく、行政・司法・金融の結節点としての機能集積で成立している。広域生活圏のハブとして周囲30km圏から人を吸引し、昼間だけ30万都市として稼働する。いわば「多極分散県モデル」の中核ノードであり、一極集中型の仙台や札幌とは評価軸そのものが違う。人口が増えないから「弱い」のではない。住まれないことが、この都市の機能条件なのだ。
🍿 今日のポップコーン
🎯雑学: 水戸市の公式キャラ「みとちゃん」は、頭にわらつと(納豆の藁包み)をのせている。好きな食べ物はもちろん納豆。
📊データ発見: 昼夜間人口比112.4は、東京都を除く関東6県の県庁所在地で最高。さいたま(84.5)や千葉(94.6)が東京に人を送り出すベッドタウン型なのに対し、水戸は真逆の「吸引型」。
🔍構造理解: 茨城は「多極分散型」の県。水戸の空き家率18%は都市の衰退ではなく、県全体が複数の拠点に機能を分散させた結果 ── いわば「分散の代償」だ。
TOTAL SCORE
経済基盤は堅実だが、住宅リスクが突出。「稼ぐ力はあるのに住まれない」構造が数字に表れている
7.0〜10.0 強い・安全
4.0〜6.9 中位・要注視
1.0〜3.9 弱い・危険
スコアの読み方: 各指標を47県庁所在地内で標準化し、成長性(GROWTH)とリスク(RISK)の2軸で評価。総合スコアは両者を統合した持続性指標。人口ほぼ横ばい・所得16位・財政力13位という経済面の強さに対し、空き家率ワースト5位(18.0%)が住宅リスクを押し上げている。東北編の「居住都市の衰退」とは異なる、「機能都市の空洞化」という新しいパターンだ。
NEXT QUESTION
人口52万、北関東最大の都市・宇都宮市。
「餃子の街」のデータには何が隠されているのか?
地方都市分析シリーズ 都市分析 Vol.8 ── 水戸市
データ出典: 国勢調査(2020)/ 社人研将来推計(2023年公表)/ 地価公示(2021-2025)/ 住宅・土地統計調査(2023)/ 経済センサス(2021)/ 観光庁宿泊旅行統計(2024)/ 総務省財政状況資料(2021)/ e-Stat API
本記事のデータは公開統計に基づく分析であり、投資助言ではありません