エンドゲームの後、MCUに何が起きたか
37作品スコア推移で見るフランチャイズ疲労の構造
MCUは37作品でPhase 3の平均スコア7.48から、Phase 5の6.85まで低下した。平均興行収入は12.3億ドルから5.98億ドルへ半減。だがデータは「疲労」と「復活」が交互に来る構造を示している。
2019年4月、アベンジャーズ/エンドゲームが世界興行収入28億ドルを記録した。映画史上最高額。11年かけて22作品を積み上げたMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の集大成だった。トニー・スタークの指パッチンで泣いた観客は、同時にMCUの「物語の頂点」を目撃していた。
それから6年。MCUは新たに15作品を公開したが、空気は変わった。「マーベル疲れ」という言葉がSNSで飛び交い、マーベルズ(2023)は興行収入約2億ドルとMCU史上最低を記録。製作費2.75億ドルを大きく下回った。
しかし同じ時期にスパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームは19億ドル、デッドプール&ウルヴァリンは13億ドルを稼いでいる。フランチャイズ疲労は本当に起きているのか?それとも「疲れる映画」と「疲れない映画」があるのか?
この記事ではTMDBの評価データと興行収入を使い、MCU全37作品のスコア推移を可視化する。データが示すのは「一律の衰退」ではなく、もっと構造的なパターンだ。
そしてなぜ、一部の作品だけが復活できるのか?
MCU全37作品のTMDBスコアをPhase別に色分けして時系列に並べた。視覚的に明らかなのは、Phase 3の安定した高水準と、Phase 4-5のばらつきの拡大だ。
一目でわかるのは、MCUのスコアが「V字」ではなく「N字」を描いていることだ。Phase 1で上昇し、Phase 3で頂点を迎え、Phase 4-5で下降する。しかし単調な下降ではなく、ノー・ウェイ・ホーム(7.9)やGotG Vol.3(7.9)、デッドプール&ウルヴァリン(7.6)のように突発的に回復する作品がある。
最も低いのはマーベルズの5.9。MCU史上初の「6点未満」であり、同じ年に公開されたGotG Vol.3(7.9)と2.0ポイントの差がある。同じフランチャイズ内でこれほどの品質差が生まれること自体が、MCUの構造変化を物語っている。
Phase 1の平均7.07からPhase 3の7.48への上昇幅は+0.41。Phase 3から5への下降幅は-0.63。上るのに11作品かけ、落ちるのは14作品。「登るより落ちるほうが速い」のはフランチャイズの宿命かもしれない。
Phase別に平均スコア(赤丸)と平均興行収入(灰色バー)を並べると、質と量が最も揃ったPhase 3の特異性が浮かび上がる。
スコアと興行収入が最も美しく揃うのはPhase 3だ。平均スコア7.48、平均興行収入12.3億ドル。質と量が両立した黄金期。
Phase 4-5では興味深い乖離が起きている。Phase 4の平均スコア(7.14)はPhase 2(7.22)とほぼ同水準だが、興行収入は8.16億ドルと大きく落ちている。これは「映画の質が落ちた」というより「観客がMCUに使うお金のデフォルト値が下がった」ことを示唆する。
Phase 5はスコア(6.85)も興行収入(5.98億ドル)も最低。ただしこの数字にはデッドプール&ウルヴァリン(13.4億ドル)も含まれている。極端な成功と極端な失敗が平均を作る構造になっている。
個別作品のノイズを取り除いた移動平均で見ると、「疲労の始まり」は明確だ。
ピークは#18周辺(ブラックパンサー〜インフィニティ・ウォー)の7.73。そこから12作品かけて#30で6.53まで下落する。1.2ポイントの下降は、MCU全体の標準偏差の約2倍に相当する。
注目すべきは、Endgame(#22)の時点ではまだ移動平均が7.47と高い水準を保っていたことだ。つまり「Endgameで疲労が始まった」のではなく、「Endgame後の4-5作品で急落した」が正しい。エターナルズ(6.8)→ソー:ラブ&サンダー(6.4)→アントマン:クアントマニア(6.2)→マーベルズ(5.9)という連続低下が疲労の実体だ。
しかしGotG Vol.3(7.9)やデッドプール&ウルヴァリン(7.6)で移動平均は一時的に回復する。「フランチャイズ疲労」は不可逆ではない。ただし回復させるのは「新しいIP」か「ファンに愛されたキャラクターの完結編」であり、MCUの中核マルチバース路線ではないことが示唆的だ。
MCUは単独の成績だけでなく、ヒーロー映画ジャンル全体との相対位置でも変化が起きている。
2017-2018年、MCUはヒーロー映画ジャンル全体の平均を大きく上回っていた。MCUが「ヒーロー映画の質の基準」を引き上げていた時代だ。
2023年以降、MCUとジャンル全体の差が縮まり、一部の年では逆転すら起きている。これは「MCUが落ちた」のか「他が追いついた」のか。答えはおそらく両方だ。DCのザ・バットマン(7.7)やジョーカー(8.1)のように、MCU以外のヒーロー映画が質を上げている。
ROI(投資収益率)で見ると、疲労の構造がさらに鮮明になる。
Phase 3は全11作品が200%超え(製作費の3倍以上回収)。一方Phase 5ではマーベルズが-25%とMCU史上初の赤字を記録した。
しかしデッドプール&ウルヴァリン(569%)は製作費2億ドルから13.4億ドルを稼いでいる。「MCUだから売れない」のではなく、「観客が期待するMCU映画の条件が厳しくなった」のだ。
Phase 3の平均予算2.08億ドルに対してPhase 5は2.12億ドル。製作費はほぼ変わっていないのに、回収率が半分以下に落ちている。これはコンテンツの問題であると同時に、「22作品分の蓄積で爆発した」Phase 3と同じことを「マルチバースという新しい求心力」で再現しようとして失敗した戦略の問題でもある。
ヒット作と凡作の差が広がる「分散の拡大」である
MCUの「疲労」は、単純な品質低下ではなかった。37作品のデータが示すのは、Phase 3で確立された「何を作ってもヒットする」状態が崩壊し、作品ごとの品質差が拡大するという構造変化だ。
Phase 3の標準偏差は0.42(最低6.8〜最高8.2)。Phase 5は0.75(最低5.9〜最高7.9)。「ハズレがない」フランチャイズが「当たり外れが激しい」フランチャイズに変質した。これは映画の質の問題であると同時に、マーケティングの構造変化でもある。エンドゲームまでのMCUは「22作品を見てきた観客が見届ける物語」だったが、Phase 4以降は「新しい物語の入口」を求められた。入口には求心力が必要だが、マルチバースという設定はそれを提供できなかった。
興味深いのは、ファンに愛されたキャラクターの「完結編」(GotG Vol.3、デッドプール&ウルヴァリン)だけが例外的に成功している点だ。観客が求めているのは「新しいMCU」ではなく、「知っているキャラクターの決着」なのかもしれない。
この分析にはいくつかの限界がある。TMDBスコアは公開後に蓄積されるため、新しい作品ほど投票数が少なく、スコアが変動しやすい。Phase 5の作品(特に2025年公開分)は今後スコアが安定する可能性がある。また、Disney+配信の影響で劇場興行収入だけでは収益性を正確に測れない。
MCU37作品のデータが教えてくれるのは、フランチャイズ疲労は「いつか必ず来る」ものではなく、「物語の求心力が失われたとき」に来るということだ。エンドゲームのようなカタルシスをもう一度作れるかどうかが、MCUの次の10年を決める。
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映画分析シリーズ Vol.12 ── MCUフランチャイズ疲労
データ出典: TMDB(The Movie Database)




